大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和37年(ネ)589号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金四八二万四〇〇〇円および内金四七〇万円に対する昭和三五年四月八日以降、内金一二万四〇〇〇円に対する本訴状送達の日の翌日以降各完済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人において控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の関係は、控訴代理人において

「商法第二六二条はその立法趣旨より見て会社に代表取締役があるにもかかわらず会社が通常の取締役等に表見的代表名義の使用を許した場合に限り適用されるべきであつて、会社に代表取締役を欠いている場合にまでも拡張して適用されるべきではない。また会社が表見的代表名義の使用を積極的に認めているにせよ、消極的に認容しているにせよ、これは代表取締役について決すべきものであつて、通常の取締役のみがたとえ過半数でも表見的名称の使用を認容したとしても、その適用を見るべきではない。これを本件について見るに、朝日商工の代表取締役石川樹は昭和三四年九月一三日本社を出たまま行方不明となり、なんら本社への連絡をしてこなかつたのであるから、これはその職務を放棄したものとして代表取締役の辞任と同様にとり扱われるべきである。してみれば当時朝日商工には代表取締役がいなかつたことになるから、この場合商法第二六二条を適用すべきではない。また代表取締役である右石川は庄司の代表取締役代行者なる名称の使用についてこれを積極的に認め、もしくは黙認していた事実はないのであるから、この点からしても同条を適用すべきではない。」

と述べた。

証拠(省略)

理由

当裁判所も次の判断を付加するほかは、原判決と同様の理由によつて控訴人の本訴請求は失当であり、これを棄却すべきものと判断するので、原判決の理由をここに引用する(ただし原判決の理由記載中の「ブルトーザー」をいずれも「ブルドーザー」と訂正する。)

一、当審証人加藤博敏、村井信夫、斉藤武雄の各証言は前認定の心証を強くするものであり、一方当審証人庄司富喜男の証言中前認定に副わない部分は原判決が述べているものと同様の理由で信用し難く、原審証人伊藤康生、箭内邦雄、当審証人中村龍三の各証言中庄司富喜男が小松製作所の者から監禁されて、おどかされて、あるいは責められて書類を作成せしめられた旨の部分は、いずれも右庄司からの伝聞にかかるので、これまた信用し難い。

二、控訴人は商法第二二六条は会社に代表取締役を欠き或いはこれを欠くと同様の事態のある場合には適用すべきでない旨抗争するけれども、前示認定の事実によれば本件の場合朝日商工の代表取締役が死亡あるいは辞任等により欠員となつていたのではなく、代表取締役石川樹の行方が一時判明しなかつただけのことであるから、その点で右抗弁は採用できない。控訴人はまた商法第二六二条の適用に関連し、会社が通常の取締役等に表見的代表名義の使用を認容しているかどうかは代表取締役について決すべきである旨抗争するけれども、同条の解釈として会社側の右のような態度が必要とされるのは、保護されるべき第三者との釣合いから会社にも帰責原因のあることを認めようとするのであるから、この帰責原因ありとするためには会社が通常の取締役等に表見的名称の使用を容認したと見られる場合であることを要し、それで足るものと解されるのであつて、それならこの場合取締役会という業績執行機関を構成する幾人かの取締役が存在する株式会社の機構上、必ずしも代表取締役の関与が必要であるとはいい難い。本件の場合庄司が代表取締役代行者なる表見的名称を使用するについて前認定のごとき経緯(ことに代表取締役たる社長が行方不明であるという会社の緊急事態において)のある以上、会社に右にいう帰責原因ありというに十分であると考えられるので、右抗弁も採用し得ない。

よつて原判決は相当であり、本件控訴はその理由がないので、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例